Sunday, March 25, 2007

バランス

バランスについて。
私はこの説明をするときに、よく次のたとえ話をします。

大きいテーブルの真ん中に、よく弾むボールをまとめてたくさん落としたら・・・?
ボールはあちこちの方向にばらばらに転がっていきますよね?このテーブルに2人の人間が向かい合って座っていると想像してみてください。そして、ひとりがテーブルからボールが落ちないように受け止めます。そうすると、たぶん反対側にいる人もボールを落とさないように動き出すはず。どちらかがボールを止めるのに右に動いたとしたら、反対側の人も右側に動くはず。同じ方向に2人が手を伸ばしたら、反対側が手薄になってしまいますものね。これが、3人でも4人でも同じことです。ほぼ等分になるように自分の守備位置を決めるのではないかと思います。これがバランス。例えばテーブルの一角に何か物が置いてあって、そこからはボールが落ちないのであれば、自然にその部分を除いた領域を等分にするんですよね。

牧羊犬たちは、これを自然にやって見せてい るだけです。本能と呼ばれる部分です。だから、この練習をしているときにコマンドがいらない、というのが理解できると思います。転がってくるボールに集中しているときに、やれ右だ!左だ!そこで止まれ!!なんて言われると、自分の感覚と合っていればいいですが、そうでないときにはずいぶんとフラストレーションが溜まるような気がしませんか(笑)?人間同士でぜひやってみてください。相手の動きと転がるボールを見 ながら、自然に身体が動くと思います。相手にいろいろ指示をしたら、「うるさい!」って言われるかもしれませんけど。

さて、ここまではたとえ話。
このテーブルとボールが放牧地と羊に変わるわけです。違ってくるのは、テーブルという限られた面積ではない広さと、ターゲットが生き物だからまっすぐには歩かないということ。ついでにこの羊という生き物は、ボールのように放射線状に転がっていくわけではなく、たいがいひと塊にくっついてしまいます。誰かが 動き出せばみんなくっついて動き、固まって壁にへばりついたらなかなか動かない。そんな感じです。

でも、人間と犬でバランスを取る、という基本は変わりません。羊は人間より犬のほうが怖いので自然に犬から遠ざかります。すかさず人間が羊の先頭に立つようにすれば、バランスがとれてきます。まあ、言葉で表すのは簡単ですが、これが、目の強い犬、とにかく追い掛け回したい犬、なかなか追うことに目覚めない犬、それぞれ厄介なわけです。そこらへんを見極めつつ、羊が暴走する前にうまく身体をかわす術を身につけつつ、トレーニングをしていくのです。動きの速い犬は羊を暴走させやすいので、小さな丸ペンを使って練習するといいと思います。自分が止まれば羊も止まる距離を犬たちが自分で習得するまでがんばります (笑)。

で、犬の個体差はあれど、がんばって続けていると、いつか息が合うようになってきます。(お前もがんばれよ!と言う声が聞こえて きそうな今日この 頃・・・ 笑)そのころから、犬が止まりそうだな、とか、犬が動き出しそうだな、という瞬間を捉えて、コマンドをかぶせていきます。ただし、あんまり伏せの形とかにこだわると、実働には使えなくなってくることもありますので、ちょっと注意です。なぜかというと、止まるコマンドは「フセ」だから、何がなんでも伏せなければいけないとなると、伏せたら前が見えなくなるような草むらなんかでは犬が困惑してしまいます。ま、その程度っちゃーその程度のことなので、コマンドを使い分けるってのも手かもしれませんが、フセと言ったら止まりゃいい、くらいの気持ちでいたほうがハンドラーの精神衛生上いいかもしれないです。

「アウトラン」と言われる遠くの羊への大回りでアプローチするのも、バランスの延長です。まず、丸ペンである程度の距離感で羊を操ることを覚えたら、今度はさらに広いところへ場所を移して同じようにやってみます。最初は羊が逃げない程度のぎりぎりの距離(丸ペン程度の距離)に、犬と人間が同じ位置に立って、犬を左右どちらかへコマンドで促して送り出します。そしてバランスを取る練習に入っていきます。次は少し離れた距離から送り出して練習を続けます。これを繰り返していくと遠くの羊でも回り込んで連れてくることができるようになります。

なぜ、これでアウトランができるか、というと、人間の立っている位置と羊の位置を考えてバランスを取ろうとした犬は、人間と羊の距離と同じ長さを保ちつつ回り込もうとするからです。つまり羊を中心とした半径が同じ円の軌道を走ろうとするわけ。最初は短い距離で突っ込んじゃうかもしれませんが、そうすれば羊は逃げていってしまうから、何度か失敗すればわかってくると思います。バランスをとるということは、羊との距離も含んでいるわけです。この時点では、逆に半径の長 い円を描く、ということはありません。犬たちはいつでも最短距離を行きたがるものです。余談ですが、もしもコマンドと反対側に走ったときなんかはよく環境、状況を分析してみてください。最短距離でバランスをとりに行っている可能性が高いです。

同じ半径の円上でバランスをとることができるようになってくれば、人間が一歩下がることによって、この円を移動することができるようになります。犬をコマンドやプレッシャーで止まらせなければ、人間が下がると羊がついてきて、犬は前に出ることになるのです。つまり、人間が下がった瞬間少し縦長の円になり、犬がそれをまた同じ径に戻そうとする(バランスをとろうとする)、というわけ。

丸ペンよりも少し広い場所でアウトランができるようになってきたら、今度こそ本当に広い場所でアウトランを試すといいです。このころにはきっと、「バランスをとる」から「あそこに固まっている羊を連れてくる」というところへ思考が移っていると思うので、だんだん縦長の楕円形(実際にはかなり違うけど 笑)を描いて走るようになってきます。そして、向かう先の定まらない羊たちを遠くのハンドラーに向かって歩かせるために、半径が違う円弧上を左右に揺れながら羊を連れて帰ってきます。最初は羊との距離感がつかめなくて、スピードを出しすぎたり慌てたりして羊たちを大暴走させて、ハンドラーを吹っ飛ばすこともあるかもしれませんが、我慢我慢。練習は足場のいいところでやりましょう(笑)。


簡単に書いてしまったけれど、理解していただけたでしょうか?
みわファームは牧草地を細かく区切っているので大きなアウトランはできないけれど、ちょっと試してみたいぞ!と思ったら遠慮なくどうぞ。こんな説明じゃワケわかんないという方もお気軽にどうぞ。

いぬそだて

「犬を犬として考える」「犬を擬人化してはいけない」・・なんて、今はごく普通に聞く話です。これは、あんたは犬なんだから、と犬を突き放して飼う ことでも、犬がこう思ってるんじゃないだろうか?と先読みしてやることでもないと思います。今、この状況で犬はどう行動するか?、どのように考えるか?と いうことを、犬という生き物の性質を理解して考える、ことなんだと思います。私がイギリスで大変お世話になったバーバラ・サイクスは、これを「Think Like Canine(犬のように考える)」というフレーズで表しています。まあ、これもわかりにくい表現だとは思うのですが、犬は犬として行動することしかでき ない、だから人間が犬を理解しよう、ってことです。

ところで、以前ファームに、飼い主が大好きでとても群を大事にしている犬が遊びに来ました。でも、飼い主さんは他の人間のお友達を大切に思うので (人間と しては当たり前よね)、犬同士仲良く遊んでくれたらなー、なんておっしゃいます。人間同士がおしゃべりする間、犬たちは繋がれます。でも、丈夫な柱を見つ けて人間の邪魔にならない場所に、です。コマンドにはそれこそ忠実で、ちゃんと呼んだら帰ってきます。どこかで訓練を受けているのかたくさんのコマンドを 知っています。でも、些細なことで唸ったり、噛み付いたり、ヒステリックに吠え続けたりします。犬としては自然な成り行きでも、人間にとっての「問題」を 抱えてしまうわけですね。

さて、ここからはそんな犬たちに対する個人的な意見です。
こういう犬たちは、ちゃんと子犬時代を子犬として接してもらってなかったのかな?ってなんとなく思うのです。子犬はかわいいから、愛情はたっぷりもらって いるはず。じゃ、なんで人間がして欲しくないことをしてしまうのか、と考えたとき、人間の考える犬の育て方が、犬の犬としての成長にうまく働きかけていな いのではないか、と思ったのです。なんとなく時間とともに犬と人間との間にズレが生じてしまったというか・・・。

子犬をしつけましょう、教育しましょう・・・と言うと、コマンドを教えることを考えてしまいがちですが、そうではなくて、まずは、彼らの行動を見て あげること、良いことをしたらほめてやり、悪いことをしたら止めてやること。いつも身体で守ってやること。そんな普通のことをきちんとしてやることなんだ と思います。良い悪いはこの場合人間の尺度なので、犬の持って生まれた本能に任せておくことができないのです。子犬時代は人間の子供とあまり変わらなく て、群のルールは命令されたから従うものではなく、身に付けさせるものだと思うのです。

日本人の場合、玄関入ったら靴は脱ぐのよ!を、どれだけ長い期間子供に言い聞かせることか(笑)。おかげで、誰だっていつの間にか、自分から靴を脱 いで家に入るようになります(よね?)。やるべきことができたら、よくできたね、って目を見てやる。それで十分。やって欲しくないことをしたら、何度でも イケナ イよ、と伝えてやめさせる。いつでも、私の足元は安全だと伝えてやることも忘れない。すべて、言葉ではなくて人間の態度で表す。これだけなんじゃないのか なー、って思います。もちろん、言葉を理解し始めて、命令に従ったらほめてやるという時期が来ても、群の秩序を守っている犬たちにちゃんと声をかけてやる こと、気配りしてやることは大切だと思っています。やはり、彼らにはもともと刷り込まれていない人間のルールを覚えてもらっているのですから。

こういう土台ができてから、あちこちお出かけするのがいいと思います。いえ、土台作りの最中にお出かけしたってかまわないんですが、お外はいろいろ と刺激が多すぎるから、飼い主さんがとーーーーっても疲れるってだけです(笑)。この時期は野放しにしてはいけないのです。犬たちがどういう刺激を何から 受けて、それに対してどんな行動を起こすのか、ちゃんと見ていなければなりません。そして、先に書いたように伝えるべきことを伝える努力を惜しまないよう に。 そうすれば、信頼のおける犬に育つと思っています(犬を信頼できるようになることが「信頼関係」だと私は思っています)。人間は行動とともについ言葉が出 てしまうから、子犬を育てている人間は口うるさいおばさんになってるはずです(笑)。

今度は逆に考えてみます。
こういう土台作りがうまくいかなかった飼い主と犬。お互い大好きなのに秩序やルールの解釈が違っていたり、ルールをきちんと教わっていなかったりしたら、 自分が思うとおりに行動し(悪いと思ってないから)、飼い主が叱る(悪いと伝えたつもり)、ということになります。犬にしてみれば、え?なんで叱られる の!?です。飼い主の口調でいけないと察知して悪いことなんだと理解するかもしれません。飼い主が怖ければ納得してなくても従うこともあるでしょう。意見 する犬もあるかもしれないです。戸惑ってしまう犬、人間の言葉に心を閉ざす犬、、、犬の個性によってさまざまな表現をしてくるだろうと思います。最初のつ まづきに気づけば、いつだって関係修復は可能だと思いますが、気づかなければどんどん犬と人間との間にズレが生じてしまうような気がします。

私は人間や他の犬に威嚇して唸るような犬を育てたくないと思っているので、なんか犬との関係がうまくいってないなとか、「問題行動」と感じてしまう ような 場面があるときなどは、自分はちゃんと彼らに意思を伝えているだろうか?と考えることにしています。はじめに例に出した「問題」を抱えた犬たち、他の人や 犬と仲良く遊ぶことよりも、あなたの足元で安心していたいという気持ちが通じるといいね。

シープドッグ事始

さて、ファームには羊を追わせてみたいんだけど・・・という問い合わせがあります。基本的には天候と羊の体調が良ければいつでもどうぞ、です。で も、いき なり初めて羊を見て、その場でこーしてあーして・・・あーーーーー!とか言ってる間に羊と人間がバテテしまいます。なので、羊追いってこんな感じなの よ・・・ってなところを書いておきたいと思います。今さら、、、というか、最初から書いとけよ!という突っ込みはナシでお願いします(笑)。

と りあえず、犬が羊に興味を示して、追いかけたら逃げるから楽しいかも・・・というところまで持っていきます。初めからぶっ飛んで追っかけてハンド ラーの言うことに聞く耳なんてありません、というのもアリ(笑)。でも、たいがいは初めて出会うでかい動物が怖いから、近寄るのやめとこ、という感じで す。そう いうときは一緒になって追いかけてやると、自然に楽しくなってくるんでしょうね。いつの間にか自分から追うようになるのでそれでOK。やっぱり怖い、追い たくないという犬もそれでよし。またの機会にやってみようね、で終わらせてやりましょう。慎重な犬ってのもいるもんです。

追うことができたら、次に何をするか。よく聞く言葉ですが、「バランス」を教えます。これは、羊を挟んでハンドラーの対角線上に犬を止まらせること・・・ではありません。た とえ、「止まれ」のコマンドにひじょーに忠実な犬であっても、さらには「右」「左」がちゃんと理解できていたとしても、最初は声をかけずにやります。「バ ランス」は生き物それぞれが持っている感覚だから、ハンドラーの決めた位置を押し付けるわけにはいかないのです。しかも、相手も生き物だから微妙にでも動 いているわけで、絶対その場所!!なんてことはあり得ないのですね。そして、犬を止めることばかりに力を入れると、追ってはいけないんだ、と理解してしま う犬もいますし、羊を見ないように努力しちゃうこともありますので注意。「バランス」を教えるとは、犬と一緒に羊を逃がさないようにまとめながら、ハンド ラーの思う方向へ誘導する位置に犬を回り込ませる、ということです。

追いかけ(まわし)たい!と思った犬は、羊が固まってるとつまらない から動かそうとぐるぐる周りを回ったり、噛み付いたり、なんとか羊にプレッシャーを与えようとします。最初はハンドラーなんか無視して止まらない犬もいる でしょうけど、それもOK。犬たちに先手を取らせないように、羊の鼻先は人間の位置、犬たちは羊の後ろから押す位置に入るように、人間がひたすら動きます (笑)。犬が人間の位置に入ろうとしたら「違うよ!」という感じで声をかけます。ひと りで追い掛け回しても目的がなくて埒が明かないし、どうも人間がやりたいことと違うようだ、ということがだんだんわかってくれば、人間と一緒に仕事をす る、というルールがわかってきます。このバランスの練習時間がとってもかかる犬とすんなり共同作業を理解しちゃう犬がいますが、とにかくここが一番大事です。んでまあ、これができたら基本はもうほとんど終わりみたいなもんだと私は思っています。

では、もう少し「バランス」を詳しく・・・は、またあとで(笑)。

はじめに

みわファームの起こりは、ボーダーコリーに出会ってしまったから・・・ということで、ちょっとは犬のことを書こうと思います。犬といっても飼ったの はその昔の雑種とボーダーコリーだけだし、たくさんの犬を見てきた・・と言ってもシープドッグばかりなので、ひじょーに偏っていますが、あしからず。

ボーダーコリーと呼ばれる犬を知ったときから、常に 「羊」という言葉 もくっついてきました。日本人には馴染みのない動物だと思うけれど、こういう動 物を追 いたくなる衝動が最近なんとなくわかってきたような気がします。なぜかって?・・・それは・・stupid・・だから・・・(笑)。

犬の 個性、性格、んー、なんて言うかな?・・まあ、いろいろあって、馬でも牛でも食って掛かるヤツもいれば、たぶん、サイズのせいだろうけど、最初から馬 は目に入れないヤツもいます。うちにも蹴っ飛ばされてから馬を警戒するようになった犬がいますが、蹴られなければ、いまだに足元をうろちょろしていたかも しれません。小さいものには俄然強気の犬もいるし、小さくても群を成して動かなければあまり興味を示さない犬もいます。でも、共通して言えるのは、家畜 (または、生きて動くもの)をちゃんと見てから判断してるということ、殺すところまでは行かないと安心のできる犬だということです。もしも見境なく仕留め ようとしてガブッとやってしまう犬がいたとしたら、ブリードを疑うことになってしまうかもしれませんね。ファームにはたくさんの犬たちが遊びに来てくれま すが、たとえ小型犬でも違う犬種がいるときのほうがちょっと緊張します。

そんな犬たちですが、私たちが考えるシープドッグは「家庭の犬」 です。牧場にだって家庭はありますし、飼っているのはやっぱり人間ですし。あちこちで書い たりしゃべったりしてきましたが、家庭と家族の仕事がわかっているから、出しゃばって邪魔なときもたくさんあるけど、何かしようとしてくれるのではないか な?と思うのです。もちろん、最初は追いかけたい衝動から始まるので、ハンドラーなんて関係ないもんね!という犬もたくさんいますけどね。でも、家族を群 としてちゃんと暮らしている犬は、いつか、一緒に仕事をするということを理解してくれます。

我が家の犬たちや私が見聞きしてきた犬たちを思いながら、順不同、脈絡なく思いつくままにいろんなことを綴っていきたいと思います。